
ママ
帝王切開の後からひどい頭痛がします。座っているのも辛い…
出産という大仕事を終え、ようやく赤ちゃんに会えた喜びで胸がいっぱいのはずが、「なぜか頭がガンガン痛い…」「起き上がると痛みがひどくなる」と、つらい症状に悩まされていませんか?
帝王切開や無痛分娩を経験したママから、実はとても多く聞かれるのがこの「頭痛の悩み」です。
その頭痛、もしかしたら「PDPH (硬膜穿刺後頭痛)」かもしれません。

きいちゃん
PDPHは、麻酔の影響で起こる一時的な症状で、適切に対処すれば改善が見込めます。しかし、慣れない育児中にこのつらい頭痛があると、「いつまで続くのだろう」「何か大きな病気なのでは」と不安になってしまいますよね。
この記事では、PDPHとは何かというメカニズムから、症状の特徴、そして自宅でできる対処法や病院での治療法まで、助産師のきいちゃんが、分かりやすい言葉で徹底的に解説します。
1.帝王切開後の頭痛…もしかしてこれかも?「硬膜外穿刺後頭痛(PDPH)とは」
「硬膜穿刺後頭痛(こうまくがいせんしごずつう)」
初めて聞く専門用語かもしれませんが、どうかご安心ください。これは麻酔の影響で起こる一時的な合併症であり、適切な治療によって必ず改善するものです。まず、この頭痛がどのようなものか、一緒に確認していきましょう。
PDPHの基本的な定義とメカニズム
硬膜穿刺後頭痛は、英語名「Post-Dural Puncture Headache」の頭文字をとってPDPHとも呼ばれます。文字通り、硬膜という膜を穿刺(針で刺すこと)した後で起こる頭痛を指します。
帝王切開や無痛分娩では、痛みを感じさせないようにするために「脊髄くも膜下麻酔」や「硬膜外麻酔」といった手法が用いられます。この麻酔を行う際に、背骨から細い針を挿入します。
この麻酔の処置の際に、ごく稀に起こってしまうのがPDPHです。麻酔の針が硬膜に触れて小さな穴が空き、その穴から脳脊髄液がわずかに漏れ出てしまうことで頭痛が起こることがあります。
なぜ髄液が漏れると頭痛になるの?
私たちの脳と脊髄は、周りを「髄液」という透明な液体で満たされており、この髄液がクッションの役割を果たして脳を支えています。
麻酔の針が、髄液を包んでいる「硬膜」に小さな穴を開けてしまうと、そこから髄液が少しずつ漏れ出してしまいます。この髄液が漏れることで、脳を浮かせていた浮力が失われ、脳の位置がわずかに下がる**(脳圧が低下する)ため、強い頭痛として現れると考えられています。
また、漏れ出てしまった髄液の代わりに頭蓋内の内容量を一定に保とうとする反応として、血管拡張が起こることでも頭痛が生じます。
これは医療者側のミスというわけではなく、麻酔処置に伴い、稀に起こりうる合併症として理解されています。

PDPHが起こりやすい人の特徴と時期
PDPHは、すべての硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔を受けた方に起こるわけではありません。一般的に、産科領域で起こる頻度は比較的高いとされています。
特に、以下のような方がPDPHを発症しやすい傾向にあることが、これまでの研究で示されています。
【PDPHが起こりやすい人】
・出産後の女性(褥婦さん):妊娠・出産に伴い、ホルモンバランスの変化や、出産時のいきみなどが関与している可能性が指摘されています。
・若い方:年齢が若い方ほど発生率が高いとされています。
・PDPHになったことがある人:既往歴がある人はなりやすいとされています。
発症しやすい時期は?
この頭痛は、麻酔の処置が原因であるにもかかわらず、麻酔直後には起こらないことがほとんどです。
多くの場合、麻酔を行ってから48時間(1~2日)以内に発症します。帝王切開や無痛分娩から少し経って、「体が動き始めたら急に頭痛が始まった」というケースが多いのはこのためです。
95%は1週間以内に症状がなくなるといわれています。
入院中の安静にしている間に発症することが多いため、すぐに医療者が気づき、対応できる状況にあるという点も、読者の皆さんにとって安心材料になるかと思います。もし発症しても、必ず助産師や医師が連携してサポートしますから、どうかご安心くださいね。
2.PDPHの典型的な症状と普通の頭痛との見分け方
硬膜外穿刺後頭痛(PDPH)が厄介なのは、産後の他の頭痛と区別がつきにくい点です。しかし、PDPHには極めて特徴的な症状があり、これを知っておくことが早期診断と早期治療につながります。
ご自身の症状と照らし合わせながら、PDPHのサインを一緒にチェックしてみましょう。
PDPHに特有の「体位による症状の変化」
PDPHの診断において、最も重要で、他の頭痛との決定的な違いとなるのが、「体位(体の姿勢)によって痛みが変化する」という特徴です。
髄液の漏れにより、脳が下に引っ張られるため、重力の影響で痛みが悪化します。
脳が重力の影響を受けにくくなり、頭痛の原因となる張力が解消されるためです。
このように、「起き上がるとひどく、横になると治まる」という『起立性頭痛』のパターンが確認できた場合、PDPHである可能性が非常に高くなります。
そのため、入院中はこの特徴を医師や助産師に正確に伝えることが、適切な治療を受けるための第一歩となります。決して我慢せず、痛みの変化を細かく教えてくださいね。
頭痛以外に起こりうる随伴症状
PDPHは、頭痛だけでなく、他の不快な症状(随伴症状)を伴うことがあります。これらの症状も合わせて把握しておくと、より早く PDPHと特定することができます。
【PDPHに付随することがある症状(頭痛がない場合もあります)】
・首の痛み・こわばり:頭痛と連動して、首の後ろや肩にかけて強い張りや痛みを感じることがあります。
・めまい・ふらつき:姿勢を変えたときに特に強く感じることがあります。
耳鳴りや聴覚の変化:普段とは違う耳鳴りがしたり、音が聞こえにくく感じたりすることがあります。
・視覚障害:物がかすんで見える、二重に見える(複視)などの目の症状が現れることがあります。
・吐き気・幅吐:痛みの強さから、気持ちが悪くなったり、吐いてしまったりすることがあります。
これらの症状は、ご本人が訴えなければ医療者側が気付きにくいものです。「頭痛と関係ないかも」と思わず、どんな小さな変化でも遠慮なく助産師に伝えてください。
産後に起こる頭痛と見分け方
産後の頭痛の原因はPDPHだけではありません。疲れや睡眠不足などによる緊張型頭痛、あるいはホルモンバランスの急激な変化による片頭痛など、様々な原因で頭痛が起こります。
特に注意が必要がなのが、妊娠高血圧症候群などの影響による高血圧が原因の頭痛です。これは緊急性の高い場合もあるため、区別することが非常に重要です。
| 頭痛の種類 | 主な原因 | 症状の特徴的な違い |
| 硬膜外穿刺後頭痛(PDPH) | 麻酔後の髄液漏れ | 横になると治る(起立性頭痛)。後頭部から首筋の痛みが多い。 |
| 緊張型頭痛 | 疲労、ストレス、肩こり | 締め付けられるような痛み。一日中続くことが多いが、体位による大きな変化はない。 |
| 片頭痛 | ホルモン変動、血管の拡張 | ずきんずきんと脈打つ痛み。光や音に敏感になる。数時間〜数日で治る。 |
| 高血圧に伴う頭痛 | 周産期の血圧上昇(注意が必要!) | 締め付けられるような強い頭痛。PDPHとの区別は医療的な判断が必要。 |
PDPHとその他の頭痛の最も簡単な区別方法は、やはり「横になって痛みが改善するかどうか」です。
もし、横になっても痛みが全く変わらない、または他の危険な症状(みぞおちの不快感や痛み、目がチカチカするなど)を伴う場合は、PDPH以外の病気の可能性も考えられますので、すぐにナースコールを押して医師や助産師の診察を受けてください。
3.なぜ麻酔の後に頭痛が起こるの?原因を解説
「麻酔をしたら、なんでこんな頭痛が起きるの?」「無痛分娩だったのがいけないの?」
痛みのメカニズムがわからないと、さらに不安が募ってしまいますよね。PDPHの原因を正しく理解できるよう、わかりやすく説明していきます。
「髄液の漏れ」と脳への影響の詳しいメカニズム
PDPHの根本的な原因は、前述した通り「脳脊髄液(髄液)の漏れ」です。麻酔の処置が、どのようにこの漏れを引き起こすのかを詳しく見ていきましょう。
1.髄液を包む「硬膜」に開く小さな穴
私たちの背骨(脊椎)の中には、脳から続く神経の束(脊髄)が通っています。
この脊髄と、それを満たしている髄液は、「硬膜(こうまく)」という強靭な膜で全体がしっかりと包まれています。硬膜は、髄液が外に漏れないための「バリア」の役割を果たしています。
帝王切開や無痛分娩で行われる麻酔(脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔)は、背中の外側から、硬膜の手前、あるいは硬膜の内側に針を進める必要があります。
この麻酔処置の際、硬膜にごく小さな穴が開いてしまうことがごく稀にあります。これがPDPHの原因となる「髄液の漏れ」のスタート地点となります。
2.髄液が漏れることで起こる「低髄圧」
硬膜に小さな穴が開くと、中にある髄液がその穴から少しずつ漏れ出し、体内に吸収されてしまいます。
脳脊髄液(髄液)の役割:脳を水の中に浮かせる浮力を与えることで、脳の重さからくる負担を軽減し、衝撃から守っています。
漏れによる影響:髄液が漏れ出し、その量が産生される量より多くなると、脳を支える浮力が足りなくなります。
この状態を「低髄圧(ていずいあつ)」と呼びます。髄液が減ることで脳を支えきれなくなり、脳がわずかに沈み込むことで、脳の血管や神経が引っ張られ、それが強い痛みとなって現れるのです。
これが、「起き上がると痛みが強くなり、横になると痛みが軽減する」というPDPHの特徴的な症状(起立性頭痛)を生むメカニズムです。
4. PDPHになったときにあなたができることと、治療について
硬膜外穿刺後頭痛(PDPH)は、特有のつらい症状ではありますが、ほとんどの場合、入院中に適切な治療と管理を行うことで、症状が改善に向かいます。
「いつ治るんだろう」と不安な気持ちでいるかもしれませんが、病院のベッドの上でできること、そして医療者がどのようなサポートをしているのかを知ることで、少しでも安心して治療に臨んでほしいと願っています。
基本の対処法は自分でも出来ること
PDPHの診断が確定した場合、まず第一に行われるのが、体自身の回復力を高めるための「保存的治療(ほぞんてきちりょう)」です。これは、硬膜に開いた小さな穴が自然にふさがり、髄液が十分に回復するのを助けるための方法です。自分で出来ることがほとんどですので、ぜひやってみましょう。
1.徹底した「安静臥床」の重要性
PDPHの最も効果的な治療法の一つは、ひたすら横になって過ごすことです。
【横になって休むこと目的】
脳が重力によって下に引っ張られるのを防ぎ、髄液が漏れるのを最小限に抑えます。これにより、硬膜の穴が自然に閉鎖しやすくなります。

きいちゃん
赤ちゃんのお世話をしたい気持ちは痛いほど分かります。
でも、今はご自身の回復が最優先です。助産師や看護師が責任を持って赤ちゃんのお世話をサポートしますので、遠慮なくナースコールを使い、できる限り横になって過ごしてください。
2. 十分な「水分補給」とカフェインの摂取
髄液は主に血液中の水分から作られています。そのため、体内の水分量を増やすことが、髄液の産生を促す重要な助けになります。
| 点滴・経口での水分摂取 | 積極的に水分を補給します。水分が摂れない場合は、点滴で補うこともあります。 |
| カフェインの使用 | カフェインには脳血管を収縮させる働きがあり、頭痛の軽減に効果が期待できます。授乳中のカフェイン摂取に抵抗がある方もいるかもしれませんが、1日コーヒー2杯程度であれば摂取可能といわれています。 |
3. 痛みへの「対症療法」としての鎮痛剤
強い頭痛は、精神的にも肉体的にも大きな負担となります。痛みを我慢する必要はありません。内服薬や点滴による鎮痛剤を使用して、症状が落ち着くまで痛みを抑えていきましょう。
どの薬を、何時間おきに、最大何錠まで使用して良いかを助産師や医師と確認し、使用可能な容量の中で十分に鎮痛していくようにしましょう。
痛みが改善しない場合の治療「硬膜外血液パッチ(EBP)」
安静臥床などの保存的治療を数日間行っても症状が改善しない場合、麻酔科医安静臥床などの保存的治療を数日間行っても症状が改善しない場合、医師によって「硬膜外血液パッチ (Epidural Blood Patch:EBP)」という専門的な治療法が検討されます。
硬膜外血液パッチとは?
EBPは非常に効果の高い治療法で、PDPHの治療として有効と考えられています。
患者さんご自身の血液を少量採取し、麻酔を行った場所(硬膜の外側)に注入します。
注入された血液が、髄液の漏れている硬膜の穴を「蓋(ふた)」のように塞ぐことで、髄液の漏れを止めます。血液が固まることで、頭痛の原因が根本的に解消されます。
まとめ
ここまで、帝王切開後の硬膜外穿刺後頭痛(PDPH)について、その原因、特徴的な症状、そして入院中に受ける治療法について詳しく解説してきました。
最後に、大切なポイントをもう一度お伝えします。
【PDPHのサイン】
「起き上がると悪化し、横になると楽になる頭痛」が帝王切開や無痛分娩の後にあれば、すぐに助産師や看護師に伝えてください。
【対処法について】
痛みは我慢せずに使える痛み止めの種類、量を相談して適切に使いましょう。安静、水分補給、カフェイン摂取など、自分でも出来ることが主な対処法です。具体的な方法を助産師と確認し、出来る限り対処するようにしましょう。
読んでいる皆様の頭痛が早く良くなりますように。今はしっかりと休んで、回復に努めてくださいね。
【参考文献】
1.杉田道子.硬膜外鎮痛による無痛分娩で起こったこわーい話.LiSA.2023;30(7):738-740.
2.茂田宏恵,佐藤奈々子.硬膜外穿刺後頭痛 産科領域におけるPDPH.独立行政法人国立病院機構東京医療センター;2022.Available fromhttps://tokyo-mc.hosp.go.jp/wp-content/uploads/2022/11/000153727_22.pdf: [Accessed2025.10.30].
3.林玲子.無痛分娩のための硬膜外麻酔で硬膜誤穿刺:PDPHの重症度に応じた治療法を選択.LiSA.2007;14(7):694-696.
4.日本ペインクリニック学会.硬膜外自家血パッチ.インターベンショナル痛み治療ガイドライン;2014.Available from: https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide05_29.pdf[Accessed2025.10.30].

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