安定期に入る妊婦さんたちから、このような質問をもらいました。

安定期に入りましたが、運動を始めたほうがいいですか?
どんな運動をしたらいいですか?

きいちゃん
つわりが落ち着いて体調が安定するこの時期は、出産やその後に待っている育児に向けて、身体づくりをしていく時期です。適度な運動は健康な妊娠生活を送ることにも繋がります。
無理のない範囲で、出来ることから少しずつ始めてみましょう。
この記事では、妊娠中に行う運動のメリットや注意点について、助産師の視点から詳しく解説します。
1.安定期の定義をおさらい!
まず、安定期の定義と、その時期に起こる体の変化について見ていきましょう。
【安定期とは】
妊娠5ヶ月(妊娠16週)から7ヶ月(妊娠27週)の期間を指すことが一般的です。
【安定の理由】
胎盤が完成し流産のリスクが低くなること、つわりがの症状が軽くなったり治る方が多いことから「安定期」と呼ばれます。
ただし、「安定期だから何をやっても大丈夫」というわけではありません。赤ちゃんの成長のためにも、引き続き体調に気を配り、無理のない生活を心がけることが大切です。
詳しくはこちらの記事にありますので、ぜひ読んでみてください。
2.妊娠中に運動するメリットは?
体調が比較的落ち着いてくる安定期。この時期にぜひ取り入れて欲しいのが、無理のない範囲での適度な運動です。体を動かすことは、気分転換になるだけでなく、マイナートラブルの緩和にもつながります。
妊娠中の不調を和らげる
肩こりや腰痛、便秘、むくみなどのマイナートラブルの軽減に役立ちます。
妊娠中に起こるマイナートラブルの原因の多くは、大きくなったお腹によって血流やリンパの流れが妨げられたり、お腹を支えるのが難しくなることによって生じます。
運動によって血流を良くし、筋肉をつけることでマイナートラブルが軽減する方も多くいます。
体重管理に役立つ
妊娠中の急激な体重増加は、妊娠高血圧症候群などのリスクを高める可能性があります。適度な運動は、健康な体重を維持するのに効果的です。
お産に必要な体力をつける
妊娠後期には重くなった体を支えながらの生活で、体力消耗が激しいです。また、分娩ではフルマラソンを走ったのと同じ程度の体力消費があるとされています。
これからの妊娠後期や分娩、その後の育児に備えて十分な体力や筋力を無理なくつけることが出来るようになります。
3.妊娠中にちょうど良い運動とは?

妊娠中に運動すると、いいことがたくさんありますね!
これから運動をしてみようと思っていますが、どれくらいの運動がいいんですか?
運動の強さ
激しすぎる運動は、お母さん自身にも赤ちゃんにも負担をかけてしまいます。運動強度が強すぎると、子宮収縮を誘発しやすくなり、切迫流早産が起きやすくなることが知られています。(1)
1)心拍数で150bpm以下、自覚運動強度としては「ややきつい」以下が望ましい
2)連続運動を行う場合には、自覚的運動強度としては「やや楽である」以下とする
(母体心拍数として135bpm)参考文献2より
運動時に心拍数を測定できる一般の方向けのデバイスもありますので、心拍数を測りながら運動しても良いでしょう。
また、もっと簡単に評価する場合には、「ややきつい」というのは「息は上がっても会話ができる程度のきつさ」であると覚えておくのもおすすめです。
運動の時間
子宮収縮出現頻度が少ない午前10時〜午後2時が、妊婦さんがスポーツを行うのに適した時間となっています。(2)
運動習慣のない妊婦さんは、週に2〜3回、一回の運動時間は60分以内を目安とすることが望ましいとされています。(2)

4.おすすめの運動と注意点
全身の体力をつけるという観点から、有酸素運動で全身を動かすものや、体の柔軟性を高めていくものがおすすめです。
妊娠中の運動は、安全性を第一に考えましょう。妊娠中には注意する点もいくつかありますので、まずは妊婦健診に通っている産婦人科で相談することをおすすめします。
ウォーキング
特別な道具もいらず、いつでも手軽に始めることができます。自分のペースで無理なく続けましょう。
妊娠中期に一日8,000歩以上の歩行することが、妊娠後期の腰痛の悪化の割合を低くするという研究結果があります。(3)
いつもより一駅手前の駅で降りてみる、バスを使わず徒歩で移動する、音楽やYouTubeなど好きなコンテンツを聴きながら歩いてみる、など、工夫することで楽しく続けることができます。
マタニティヨガ・マタニティスイミング
妊娠中の体に配慮したプログラムなので安心して受けることができます。近くの産婦人科クリニックや、自治体の教室を探して見るのも良いでしょう。
水中で運動するマタニティスイミングは、浮力で関節への負担が軽減された状態で運動することができます。お腹が大きくなって身体を動かしにくいと感じ始めてからも、負担が少なく続けることができます。
マタニティヨガは、柔軟性を促進し、筋力を向上させるのに役立ちます。また、ヨガ特有の深い腹式呼吸を意識する動きは、分娩の時の呼吸のコントロールにとても役立ちます。
ただし、妊娠による体の変化に合わせた動きなどをすることも必要なので、妊娠専門のヨガクラスやインストラクターに相談しながら行うことをおすすめします。(1)
ストレッチ
教室や特別な出費が不要で、一人で取り組める運動にストレッチがあります。毎日コツコツと続けるだけで十分な効果があります。
特に股関節を柔軟にするストレッチは、お産をスムーズにする効果が期待できます。分娩台で足がつってしまう!ということも少なくなります。
また、肩周りや腰回りのストレッチは、肩こりや腰痛の予防にもなります。肩周りのストレッチは分娩後にも続けることで、血行を良くし、母乳分泌の増加にもつながっていきます。
- 運動する前後は水分補給をしっかりと行いましょう
- 体調がすぐれないときは無理せず休みを優先してください
- お腹が張る、痛みがある、出血があるなどの異常を感じたらすぐに中止し、かかりつけの産婦人科に
5.妊娠中の運動で避けたほうが良いもの
ここからは、妊娠中の運動として避けたほうが良いものについて説明していきます。
怪我のリスクのあるもの、腹圧のかかるもの
お腹に直接的な力が加わるものや、怪我のリスクがあるものは避けましょう。妊娠中に身体に強い衝撃が加わると、常位胎盤早期剥離や切迫早産、前期破水の可能性が高くなってしまいます。
また、同様に重いものを持ち上げるような腹圧のかかるものも避けたほうが良いです。
長時間あおむけになるもの
子宮がだんだんと大きくなるにつれて、お腹も重くなっていきます。長時間あおむけになると、重くなった子宮により、腹部大動脈や下大動脈を圧迫し、「仰臥位低血圧症候群」になってしまいます。
自覚できる症状として気持ちの悪さ、冷や汗、目の前が白くなるなどがあります。
長時間あおむけになるような運動は避けるようにしましょう。
体温が上がりすぎる運動
お母さんの体温が上がりすぎると、お母さんにも赤ちゃんにも健康の影響があります。
ホットヨガ、暑い時期に屋外で行う運動、冷房の効かない部屋での運動などは避けるようにしましょう。
平坦でない場所での運動
平坦でない場所で運動することで、転ぶリスクが高くなります。普段であれば何も危険がない場所であっても、お腹が大きくなることで身体の重心位置が変わり、バランスを取るのが難しくなります。
妊娠中の運動は平坦な場所で行うものを選びましょう。
6.妊婦さん全員に運動を勧められるわけではない
ここまで運動のメリットや、おすすめの運動、注意点についてお伝えしてきましたが、妊婦さん全員が運動をできわけではありません。
妊婦さん自身の健康状態や、妊娠の経過、赤ちゃんの状態によっては運動をおすすめできない場合もあります。
【禁忌】
後期流産や早産
常位胎盤早期剥離
妊娠高血圧腎症
【勧められない人】
重篤な心疾患
呼吸器疾患
頸管無力症
持続する性器出血
前置胎盤、低置胎盤
前期破水
切迫流早産
妊娠高血圧症候群 など
運動を始めたいと思ったときは、必ず産婦人科で相談をして、医師に許可をもらってから始めるようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、妊娠中の運動について、メリットや注意点、おすすめの運動について詳しく解説しました。
運動はマイナートラブルの軽減や、体重管理、お産に必要な体力をつけるなど、たくさんのメリットがあります。しかし、全ての妊婦さんにおすすめできるわけではありません。必ずかかりつけの産婦人科医に相談してから始めるようにしましょう。
「運動してみようかな」と思ったあなた!この記事が、妊娠中の心と身体を健やかに保つお手伝いになれば嬉しいです。
「そもそも安定期っていつから?」「どんな身体の変化が起こるの?」と気になった方はこちらの記事も参考にしてください。
【参考文献】
1.宗田聡.妊娠中の運動.臨床スポーツ医学.2023;60(7):566-569
2.学術委員会産婦人科部会.妊婦スポーツの安全管理基準.臨床スポーツ医学会誌.2020;28(1)213-219.
3.高橋彩華,細坂泰子.ウェアラブルウォッチを用いた妊娠中期の身体活動量が及ぼす妊娠後期の腰痛への影響.日本看護科学学会誌.2024;44:1018-1027.
4.オーダーメイド型自費リハビリ施設NEUROスタジオ.脳卒中リハビリの効果を最大化する科学的な自主練習メニューと負荷設定.NEUROスタジオ;2025.Available from:https://www.ilneurostudio.com/1955/ [Accessed2025.9.8].

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