妊娠中のヘパリン自己注射、どうやるの?助産師がわかりやすく解説

出産

こんにちは、助産師のきいです。前回は「抗リン脂質抗体症候群とは?」の記事を書きました。

今日は抗リン脂質抗体症候群や血栓症と診断された妊婦さんが、医師の指導のもとヘパリン皮下注射を自分ですることになった場合に参照できる記事を書きました。

「自分で注射できるの?」「痛くないの?失敗しない?」と、不安になるのは当然です。

この記事では、自己注射の方法・安全にできるコツ・毎日続けるためのポイントについて、助産師の立場からわかり易く解説していきます。

ヘパリン自己注射とは?なぜ必要なの?

抗リン脂質抗体症候群(APS)は、体内に血栓ができやすくなる自己免疫性の疾患です。妊娠中は特に血栓のリスクが高まるため、血液をサラサラに保つことで、胎盤の血流を守り、赤ちゃんの成長を支えることができます。

注射と聞くと、怖く感じるかもしれませんが、使用する針は非常に細く、慣れれば3分もかからず終わることがほとんどです。

自己注射に使う道具と準備

物品準備

まず、自己注射に必要なものを確認しましょう。病院から以下の物品が渡されているかを確認します。

  • ヘパリンカルシウム皮下注射シリンジ
  • 消毒用アルコール綿
  • 注射針
  • 絆創膏
  • 針を廃棄するための容器

針を廃棄するための容器は、自分で準備するように言われることもあります。硬くて、針を通さず、針が飛び出ないサイズのものを準備します。
また、中身が8割程度になったら無理に入れず、新しいものに交換するのも、針刺し事故を防いで安全に使うポイントです。

環境は「落ち着いて、安全で、毎日同じ場所・時間で」

環境の面で重要なポイントは、清潔、安全、落ち着いてできる場所か?という部分です。

上のお子さんがいる場合には、ご家族の方に自己注射の時間であることを伝え、投与中は一緒に過ごしていてもらうのも一つの方法です。
できるだけ同じ時間帯・同じ場所で注射する習慣をつけておくと、打ち忘れもなく、心を落ち着けて打つことができるでしょう。

薬剤の準備

  1. シリンジ内の気泡を上に集める
    キャップを上にして、シリンジ部分を爪で弾いて気泡を上部に集めます。
  2. キャップを外して注射針をつける
    内筒を間違って押さないよう、集めた気泡が戻らなよう、ゆっくりとキャップを外してから、注射針をしっかりとシリンジにつけます.
  3. 空気を抜く《打つ直前》
    注射針のキャップを外します。
    薬剤まで出てしまわないよう、注射器内の空気を出してから使用します。

*気泡が何個もできている場合には、上部に上がってきにくいことがあります。逆さにしたり斜めにして、気泡を1箇所に集めてから爪で弾いてみてください。

注射する場所と姿勢のポイント

注射部位

ヘパリン自己注射は、皮膚の下の脂肪部分に薬剤を注射していきます。自分で打つ場合には、お腹や太ももが打ちやすいでしょう(2)。
お腹に打つ場合には、おへその周り5cmは避けるようにしてください。おへその周りには繊維組織が多く、薬剤の吸収が不安定になると言われています(2)。

注射する場所は、毎日少しずつ位置を変えてしこりや皮膚の炎症を防ぎましょう。左右交互にするのもおすすめです。

注射するときの姿勢

姿勢は「椅子に座ってリラックスした状態」がおすすめです。背中を軽く丸めて、注射する部分をのぞき込むようにします。

この時、椅子は回転式のものではなく、固定されたものに座るようにして下さい。

ゆっくりで大丈夫!注射してみましょう

ここからは、実際の注射手順を一つずつ説明していきます!

刺す前まで

1.しっかりと手を洗う
「針を刺す」という行為は、体の外と体内が一時的につながっている状態です。感染を防ぐため、しっかり手を洗って清潔にしましょう。

2. 物品を使いやすい位置に準備、薬剤の準備
打つときに使いたいものにすぐ手が伸ばせるように使いやすい位置に準備していきます。
薬剤もこのタイミングで準備します。

3.皮膚をつまんで消毒
注射を打ちたい場所を選び、左手で皮膚をつまみます。右手でアルコール面を持ち、中央から外に向けてくるくると拭いて消毒します

 

注射針を刺入する

4.皮膚に対して斜めに針を刺す
注射針のキャップを外して、中の空気を抜きます。
左手で皮膚をつまんだまま、右手でシリンジを持ちます。皮膚に対して30〜45°の角度で針をすっと刺します
*経験談を聞くと、ゆっくりと刺した方が痛みを強く感じるようです。怖いかもしれませんが、すっとスムーズに刺してみましょう!

薬剤を注入

5. 血管内に入っていないことを確認してから、ゆっくりと薬剤を注入する
右手は固定したまま、左手で軽く内筒(上の押す部分)を引く。血液が逆流しないことを確認してから、ゆっくりと内筒を押して、薬剤を注入する。
*血管内に入っていると、血液が逆流してきます。すぐに針を抜いて、しっかりアルコール綿でおさえてください。
*血管内に注入してしまうと、薬の吸収率が皮膚よりも早くなってしまいます。

6.針を抜いて止血
針を抜いて、そのまま針捨て容器に捨てます。アルコール綿で刺した部分をしっかりと押さえて止血しましょう。ある程度止血できたら、絆創膏を貼っておしまいです。

《針刺し事故を防ぐポイント》
針はシリンジから外さずに捨てます!また、容器に入れるのは針を下にして捨てるようにしましょう。

続けるコツと、助産師からのメッセージ

自己注射は、毎日決まった時間に続ける必要があります。体調が悪い日や面倒だと感じてしまう日もあるかもしれません。

そんなときは、「この注射は、赤ちゃんの命を守るものなんだ」と、自分自身に声をかけてあげてください。

毎日同じ場所、同じ時間、同じ行動をした後(歯磨きした後、お風呂に入った後など)に打つようにするのも習慣化のポイントです。

注射に慣れた妊婦さんの多くが「最初はこわかったけど、1週間もすればもう日課になってた」と話してくれたこともありました。不安やわからないことがあるときは、遠慮せず医師や助産師に相談してくださいね。

妊娠中のヘパリン自己注射は、赤ちゃんの命を守る大切な治療です。最初は不安でも、やり方を理解し、少しずつ慣れていけばきっと大丈夫。あなたの頑張りは、赤ちゃんにちゃんと届いています。

助産師として、あなたの毎日の努力を心から応援しています。無理せず、自分のペースで続けていきましょうね。

【参考文献】
1.齋藤滋.ヘパリンカルシウム皮下注5千単位/0.2mlシリンジ「モチダ」を使用される方へ 自己注射法マニュアル 在宅自己注射説明書.持田製薬株式会社,2022.
2.中山有香里.ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術.株式会社メディカ出版,2021.

看護大学卒業後、総合病院の産科病棟で看護師として経験を積み、助産師学校へ進学。現在は大学病院の周産期センターで多くの命の誕生に立ち会う助産師として勤務しながら、公衆衛生大学院への進学も視野に入れ、仕事も勉強にも全力投球しています!

ハイリスクな妊娠・出産などにも携わる中で、赤ちゃんが健やかに育つには、お母さんとご家族へのきめ細やかなサポートが不可欠だと痛感。さらに、妊娠前から全ての女性が心身ともに健康であることの重要性も強く感じています。女性とそのご家族の心と身体に寄り添い、赤ちゃんがその子らしい笑顔で育つ未来を支えられるよう、日々のケアを大事にしています。

このブログは、妊産婦さんとご家族、子育て中の全ての方の「知りたい」を解決するだけでなく、看護・助産学生さんの学習に役立つ情報を発信しています。現役助産師として、臨床のリアルな視点から、妊娠前からの健康、出産、育児の不安を解消し、明日から活かしていける情報をお届けします。

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