こんにちは、助産師のきいです。
出産後、赤ちゃんへの愛おしさに溢れる感情の一方、突然の胸の痛みや体調不良に襲われ、不安を感じている方がいるのではないでしょうか?

おっぱいがカチカチに張って熱い…。体もだるいし、痛くて横にもなれない!
心もボロボロです…。
休日・夜勤で働いているときに、辛そうな声でお母さんたちから電話がかかってくることもよくあります。授乳するのも辛くて、動けない自分に戸惑い、痛みで心細くなってしまっているお母さんたちからのSOSの訴えを聞くこともあります。

きいちゃん
今回は、そんな乳腺炎について、「そもそもどんな状態なの?」「どうしてなっちゃうの?」「どんな症状が出るの?」といった基本的な疑問から、知っておきたい乳腺炎の種類まで、しっかりと解説していきます。乳腺炎で悩んでいるママはもちろん、これから出産を控えている方もぜひ読んでみてくださいね。

乳腺炎とは何か?知っておくべき基本の「き」
乳腺炎とは、その名の通り「乳房に起こる炎症」のことです。特に授乳中の女性に多く見られ、「急性乳腺炎」とも呼ばれます。乳汁を分泌する乳腺組織やその周辺に炎症が起こることで、痛みや腫れ、発熱などの症状を引き起こします。
乳腺炎は
・乳腺炎は乳腺に起こる炎症である
・必ずしも細菌感染を伴うわけではない。
・乳房緊満や乳管の閉塞・つまりがあれば、発赤、疼痛、熱感(感染しているような症状)が全て起こりうるが、必ずしも感染が存在するわけではない
とされています(1)。
ママの体調だけでなく、赤ちゃんの授乳にも影響が出るため、早期の対処が非常に重要です。
なぜ乳腺炎になるの?主な原因を深掘り!
乳腺炎の原因には主に2つに分けられます。
1.おっぱいの詰まりが原因!「うっ滞性乳腺炎(うったいせいにゅうせんえん)」によるもの
これは、乳腺炎の中で最も一般的な原因であり、「うっ滞性乳腺炎」と呼ばれます。乳汁が乳房の中に滞り、蓄積された乳汁により乳房に炎症が生じます(2)。
乳汁が溜まりすぎると、乳腺内の圧力が上昇し、乳腺組織が損傷を受けやすくなります。
この状態が続くと、乳腺組織の間質で炎症反応が起こり、痛みや腫れ、熱感などの症状が現れるのです。
乳汁うっ滞が起こる具体的な原因としては以下のものが挙げられます。
原因1 十分に乳汁が排出できていない
乳腺に残ってしまった乳汁は、うっ滞性乳腺炎の原因の一つとなります。例えば、こんな場面はありませんか?
乳輪まで深く吸着できていない場合、効果的に乳汁を吸い出すことができません。
おっぱいの中に乳汁が溜まっている時間が長くなっている状態です。赤ちゃんが成長して一度にたくさん飲めるようになったり、離乳食が始まる時期には授乳回数が減り、注意が必要となります。
左右のおっぱいを均等に授乳しないと、授乳量が少ない側のおっぱいがうっ滞しやすくなります。
乳汁産生が多すぎると、赤ちゃんがお腹いっぱいになる以上のおっぱいが作られます。飲みとることが出来ず、乳房中におっぱいが残ることが続きます。
原因2 乳腺の物理的な問題
母乳の通り道である乳管が生まれつき細い方や、母乳中の成分が固まって栓ができてしまったり、白斑(乳管開口部の皮下に乳汁が貯留し、隆起している状態)の上に水ぶくれを起こして閉塞を起こすこともあります。
ワイヤー入りや、きついブラジャー、うつ伏せ寝、抱っこ紐の締め付け、長時間のシートベルトにより乳腺が圧迫され、母乳の流れを妨げることがあります。
原因3 ママ自身の体調不良
ストレスがあるとプロラクチン(乳汁産生ホルモン)は増えますが、オキシトシン(射乳反射を起こすホルモン、愛情ホルモンでもある)が低下するため、乳汁の排出が上手くいかなくなります。その結果として、乳房の中におっぱいが溜まりやすくなり、乳腺炎へと発展します(3)。
育児中のママはただでさえ心身ともに疲れやすいものです。実家への帰省や、パートナーとのちょっとしたケンカ、いつもと違う環境など、少しのストレスであってもホルモンのバランスを乱します。
脂質の多い食事や甘いものの過剰摂取が、乳腺の詰まりを引き起こしやすくするという説もありますが、科学的な根拠はありません。しかし、乳腺炎で受診されている方の訴えを聞くと、直近数日間に普段食べないような脂っこいものを食べすぎてしまった、という方もよくいらっしゃる印象です。

赤ちゃんが一度にたくさん飲めるようになってきて、寝る時間も長くなってきました。
実家に帰省するときに長距離の移動で疲れちゃって…。夫ともケンカしちゃって、ストレスがかかっていたかもしれません。
よくよくお話を聞くと、このように話してくださるママたちも多いです。一つに限らず、いくつもの原因が折り重なって乳腺炎となってしまうことがほとんどです。ここまで読んで、心当たりのある方もいるのではないでしょうか?
2.細菌が原因!「感染性乳腺炎(化膿性乳腺炎)」
うっ滞性乳腺炎が悪化したり,乳首にできた小さな傷から細菌が侵入したりすることで起こるのが「感染性乳腺炎」,別名「化膿性乳腺炎」です。主に黄色ブドウ球菌という皮膚の常在菌が原因となることが多いです(3)。
感染性乳腺炎が起こりやすい具体的な状況を見ていきます。
赤ちゃんが授乳の時に浅く吸い続けてしまうと、乳頭に強い摩擦力がかかり、傷が出来やすくなります。この傷口から細菌が侵入しやすくなります。
乳汁が乳房内に溜まった状態は、細菌が繁殖するのに非常に適した環境となります。うっ滞が続くと、そこに細菌が繁殖しやすくなり、感染性乳腺炎へと進行してしまうことがあります。
うっ滞性乳腺炎と感染性乳腺炎の見分け方
基本的には感染性乳腺炎と非感染性乳腺炎の鑑別を、所見や症状のみから行うのは不可能だとされています(3)。しかし、感染性乳腺炎まで悪化してしまうと、抗菌薬による治療が必要となってきます。母乳外来の助産師が、スムーズに医師の診察と処方に繋げられるための判断のポイントは以下のとおりです。
【判断のポイント】(2)より引用
・初発症状から48時間以上経過
・乳房局所の症状が強い
・解熱剤の効果が切れると発熱する熱型を繰り返す
・乳頭損傷がある
・効果的な授乳・搾乳ができない
・患部につながる乳管が閉塞しているもしくは分泌がわずかである
・濃縮した黄色い乳汁が分泌する
これって乳腺炎のサイン?具体的な症状を知ろう
ここまで読んできて、自分は乳腺炎かもしれない?と思い始めている方もいらっしゃるでしょう。乳腺炎の症状は、その種類や重症度によって様々ですが、おっぱいが乳房内に溜まりすぎている状態から、うっ滞性乳腺炎、感染性乳腺炎へと連続的に移行していきます。一般的には以下のサインが現れるため、これらの症状に気づいたら、早めの対処が肝心です。
乳房に見られるサイン
⬜︎痛み:乳房の一部、または全体に痛みを感じます。
⬜︎腫れ・しこり:母乳がうっ滞した部分や炎症を起こした部分が固くなり、硬結した状態となります。
⬜︎発赤:炎症が起きている部分の乳房の皮膚が赤くなります
⬜︎母乳の出が悪くなる:乳管が詰まっていたり、うっ滞状態により乳輪・乳頭の浮腫が強くなると、母乳がいつもより少なくなるように感じます。
全身症状
乳腺炎が起きているときに、母乳中に放出される炎症物質と母乳たんぱくとの抗原抗体反応が、インフルエンザのような症状を起こすと考えられています(3)。
⬜︎発熱:37.5℃以上の発熱があることがあります
⬜︎悪寒:熱が上がる前に体温を上げようとして、全身が震えるような症状が出ることがあります。
⬜︎インフルエンザのような体の痛み
これらの症状が見られたら、「もしかして乳腺炎かも?」と疑い、迷わず早めに対処することが大切です。特に高熱や全身症状が強く、辛い場合には、自己判断せずに医療機関を受診することを強くお勧めします。

私にも当てはまる症状がありました。原因がわかってほっとしました。乳腺炎に対して自分でできることってあるのかな?どんな時に病院に行くべきなの?

きいちゃん
次の記事では実際に乳腺炎になってしまった時に、ご自宅でできる具体的な対処方法と、病院に行くべきタイミングについて詳しく説明していきます。ぜひそちらも参考にしてくださいね。
【参考文献】
1.Amir, L. H., & Academy of Breastfeeding Medicine Protocol Committee. (2014). ABM clinical protocol #4: Mastitis, revised March 2014. Breastfeeding Medicine, 9(5), 239-243.
2.日本助産師会 授乳支援委員会.乳腺炎ケアガイドライン2020. 2. 日本助産師会出版;2021.
3.水野克己,水野紀子.母乳育児支援講座. 第2版.東京:南山堂;2017.
コメント